どうも。カルチャーマニアのSai(@saisei_to_hakai)です。
【すべてがFになる(The Perfect Insider)】からはじまり、【有限と微小のパン(The Perfect Outsider)】で終わる、森博嗣の【S&Mシリーズ】。
1998年に発行された作品なのに、驚くべきことに完全なるVRが出てくるミステリ小説なんです。
当時、名古屋大学助教授だった森博嗣氏。最新テクノロジーの知見があったのでしょうけれど、驚くべき先見性ですね。
そんな森博嗣の【S&Mシリーズ】をレビューします。
VRが登場する小説【有限と微小のパン】考察と感想レビュー
【有限と微小のパン】 森博嗣 著
【有限と微小のパン】作品の大まかな内容
第一作目の【すべてがFになる】にて。女子大生の西之園萌絵が、真賀田四季という天才博士に研究所へ招かれます。
研究所がある孤島へ、大学の犀川先生らと再び訪れることになり、そこで殺人事件が起こります。
好奇心あふれる西之園萌絵は、事件の真相を探ろうとしますが、解明にはいたりません。
密かに想いを寄せる犀川先生に話すうちに、情報の断片から犀川は真相にたどりつきます。
が、時すでに遅し。すべてをコントロールした天才・真賀田四季は島の外へ消えていました。
そんな感じで毎作、起こった事件に興味津々な西之園萌絵と、無関心な犀川先生が解明してゆく。
そして物語に影響し続け、最後に再び現れる天才・真賀田四季。という犀川(S)&萌絵(M)の【S&Mシリーズ】です。
小説【S&Mシリーズ】感想レビュー
個人的に好きなところを言います。このシリーズは、事件の原因となる動機が魅力的です。
血ナマ臭い火曜サスペンスみたいな怨恨・愛憎劇とは全く質が違います。
このシリーズで犯される犯罪は、一般通念を超えた感性によって起きているケースが多いです。
天才による究極の合理性や、芸術家による芸術の完成、人生を賭けてきたプロフェッショナルのプライドなど。
「犯罪」というカテゴリを超えて、美しさすら感じる。
常人には理解できない感性。それを持って生きる人間の業が、事件となって衆目にとらえられる。といった感じです。
天才の思考に触れられる、第一作【すべてがFになる】
数学者の宇宙が垣間見える、第三作【笑わない数学者】
芸術家の感性と、芸術の完成。第五作【封印再度】
天才マジシャンのアイデンティティと咆哮。第六作【幻惑の死と使途】
僕はこのあたりが好きでした。
あとキャラが魅力的。
金持ちお嬢様・西之園萌絵。ものすごい計算能力を持っているが、事件の真相にはなかなかたどりつけない。犀川先生に恋心を抱いている。
犀川先生は、事件に無関心。だが常人離れした野性的思考力を持っており、真相にいち早くたどり着く。
天才の世界に一歩足を踏み入れてる印象の、危うい存在。
そして天才・真賀田四季。多重人格者。最初から最後まで鮮烈に君臨し続ける、物語の影の支配者。言うセリフすべてが天才。
作品内に、天才に関する文があるのでここで引用したい。
善と悪、正と偽、明と暗。
人は普通、これらの両極の概念の狭間にあって、自分の位置を探そうとします。
自分の居場所は一つだと信じ、中庸を求め、妥協する。
だけど、彼ら天才はそれをしない。
両極に同時に存在することが可能だからです。
このような、引用したくなる部分がいっぱい。
犀川×西之園のやり取りも楽しいし、犀川×真賀田四季のやり取りは、哲学的で美しいです。
そして完結編の【有限と微小のパン】について。
VR作品として見る【有限と微小のパン】
ラストの【有限と微小のパン】には、VRが登場します。
興味深いのは、VRシステムを作ってる社長がVRについて説明しているシーン。
「実際、VRだと莫大なコストがかかりすぎるので、リアルで本物を作った方が安上がりなんです」
20年以上も前だと、そのような状況なのです。
これが技術の進歩によって、ひっくり返りつつあると。状況の変化が面白いですね。
登場人物たちは、VRゴーグルをかぶってVR内に入ったりもします。
今、ふと思ったんですけど、もしかして、どこかのタイミングで犀川先生はARだった、みたいなことってない?ないか。
いや、でも犀川先生、VRゴーグルかぶって消えてたしな。
VR・AR・XRが世の中に浸透した時、【有限と微小のパン】の謎が全て解ける、って可能性もなくはない。
そういう時空を超えた仕掛けを、森博嗣はやりかねないんじゃないか…。
万が一、僕がXR有識者になって、もう一回読み返して何かわかったら言いますね。
あと今になって気付いた、興味深い点。
第一作目の【すべてがFになる】で、すでにVR的な発言をしていました。
「先生……、現実って何でしょう?」萌絵は小さな顔を少し傾けて言った。
「現実とは何か、と考える瞬間にだけ、人間の思考に現れる幻想だ」犀川はすぐ答えた。
「普段はそんなものは存在しない」
ここですでにラスト【有限と微小のパン】への伏線が張られていたのかと考えると、末恐ろしいですね。
そして最後に、シリーズ通して読んだ人だけがわかる話を。
真賀田四季が登場する、第一作と最終作。
【すべてがFになる】の副題は「THE PERFECT INSIDER」。
【有限と微小のパン】の副題は「THE PERFECT OUTSIDER」。
天才の内側にあった世界が、外の世界まで広がって、やがて世界を飲み込む。
それはまるで、第三作【笑わない数学者】のラストのような光景ではなかったでしょうか。
人生に一回は、このシリーズを読むことをオススメしたい。知的好奇心のある人は楽しめると思います。
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